平成28年8月17日(日) 北陸中日新聞「6面右上」
クロール最速は「S」? or 「I」?
手腕の水中動作 Iの字は「ソープ」
イアン・ソープ(オーストラリア)の「I字」
<記事内容>
クロールでは、手のひらが「S字」を描くように曲線的に動かすといい。そんな理論が編み出されたのは、1970年代だった。この泳法で「男子100m自由形」の記録は50秒を切った。
そんな泳法と決別したのが、オーストラリアのイアン・ソープ選手。腕を直角に水に突っ込み、そのまま後ろにかく。これで200mや400mの記録を樹立し、「I字泳法」と呼ばれるようになった。
早い時期から「I字」に注目していた伊藤慎一郎・工学院大教授(流体力学)はこう言う。
「水をまっすぐ後ろに押したとき、推力は最も大きくなる。1ストロークあたりの推力は、S字に比べて11%大きい。同じ距離でも、少ないストロークで速く泳ぐことができる」
イアン・ソープが活躍したのは2000年(平成12年)と2004年(平成16年)の五輪で、以後「I字」は日本にも普及し始めた。1かきあたりの力を高めてストロークを減らす泳ぎは、平泳ぎの北島康介選手も採用し、五輪連覇につなげた。
「S字」の逆襲
<記事内容>
今年(2016年)になって、水泳の流体力学を専門とする筑波大の高木英樹教授らは、長距離では「S字」が有利になるという論文を発表した。推進力に劣るものの、理論のうえでは効率が高いからだ。
この研究では、人体のシミュレーションモデル(水泳ロボット)を使って、「I字」と「S字」を比較した。
・「S字」の利点は、手のひらの動きによって周囲にうずができ、それによって発生する「揚力」を前へ進むために利用できることだ。
高木教授は「最も無駄が少ないのは、ハイエルボー(ひじを高く上げる)を保ちながらS字のストロークをする動きだ」と話す。
伊藤教授はこれに反論している。「むしろ逆で、長距離はI字が有効だ。力学と生理学は違う。ある程度の速度以上ではI字の方が疲れがたまらない」と主張する。
リオ五輪で獲得する泳法は?
<記事内容>
競泳の現場で、泳ぎ方が統一されているわけではない。東京SCでは「個人に合った泳ぎ方を指導している。また方針はクラブやコーチによってもさまざまだ」と話す。実際のトップ泳者は「S字」と「I字」が混ぜ合わされたストロークを採用しているという。リオ五輪ではどんな泳法の選手が栄冠を獲得するのだろうか。
高速化 水着の進歩 支え
<記事内容>
水泳の高速化は、泳法の進歩と同時に、水着の進歩が支えた。
特に2008年(平成20年)の北京五輪では、英国で開発された高速水着「レーザー・レーサー」を着用した選手が世界新記録を連発した。水着で強く締め付けることにより「体の凸凹」が押さえられ、また素材に水をはじく性質もあって、水の抵抗を最小限にできるためだ。
しかし、2010年(平成22年)には国際水泳連盟により使用が禁止された。現在着用できるのは、繊維で作られたものに限られ、全員を覆う水木の着用できない。
自由形の世界新記録は、高速水着時代の2009年(平成21年)にブラジルのシエロフィリョ選手が出した「46秒91」で、未だに破られていない。
「まとめ」として
「水泳専門誌」ではなく「新聞の記事」ですから、購読者に「リオ五輪・水泳競技の視聴観点」を興味深く伝えようとしている。とてもタイムリーでユニークな記事だと感心する。
この記事から「クロールのかき方」に「S字」と「I字」があることを、読者(泳者)に教えている。水泳は「習う」からスタートするが、自分で「学ぶ」・「工夫する」につなげていかないと、身体の成長と同時にしか記録は縮まらない。
・新しい自分。
・次のステージへ進みたい自分。
そんな、自分がいるならば、「自ら学び・自ら工夫しよう」と、いいね金澤水泳部長としては伝えたい。